【2024年】法改正前におさえておきたい改正点と基礎知識「労働者派遣法とは」
多様な働き方を選択できる昨今。正規雇用にこだわらず、契約社員・派遣社員という雇用形態を敢えてえらんでいる方も多いでしょう。2024年には働き方に関わる法律の改正が相次ぎます。4月以降の改正法施行前の今だからこそ押さええておきたい、改正点と法律の基礎知識を紹介します。
ここでは、人材派遣の業種に最も関連が深い「労働者派遣法」に関する2024年度の法改正について解説していきます。
労働者派遣法とは
「労働者派遣法」とは1986年に制定された法律です。現在は「派遣法」という通称で広く知られています。
派遣法制定前は、企業と人材の間に第三者が介在して中間マージンを取ることは搾取とみなされ、禁止されていました。しかし、企業には働き手が、労働者には働き口が必要ですので、実態として現在の派遣業に類する事業を行う人が存在していました。そこで、労働者派遣事業が適切で安全に行われるために必要な法整備として「労働者派遣法」が制定されました。
つまり、「労働者派遣法」とは、労働者を守り、適切な環境で働けるルールが規定されている法律です。時代とともに変わってゆく人の働き方や、変化の中で起こる社会問題を解決するために改正を重ねてきた経緯があります。
2024年の労働者派遣法改正で何が変わる?
今回の派遣法改正で変更されるのは「労働条件明示」のルールです。以下の4つの項目に明示義務が追加されます。いずれも、企業から派遣される人へ、場所・期間・条件などを「具体的に」明示することを義務化するものです。
1.就業場所・業務の変更の範囲
2.更新上限
3.無期転換の申し込み機会
4.無期転換後の労働条件
1.就業場所・業務の変更の範囲の明示
すべての労働者に対して、就業場所と業務の変更の範囲を明示することが必要になります。タイミングとしては、企業と人が労働契約を結ぶ、もしくは有期雇用契約を更新する際に明示することになります。
改正前にも就業場所と業務内容の明示は義務付けられていましたが、さらに「範囲」も明示する必要が追加されることになります。「変更の範囲」は、具体的には今後の人事異動で変更が見込まれる就業場所や業務の範囲、ということです。
対象が「すべての労働者」ですので、有期雇用人材(派遣社員や業務委託・契約社員など)は新規契約・契約更新のタイミングで明示できますが、長期雇用が前提の正社員は雇用契約を結ぶのは入社時の1回がほとんどで、その際に変更の範囲を網羅して具体的に示しておくのは現実的でないかもしれません。こういった場合は、就業場所・業務の変更の範囲はできるだけ広げて記載しましょう。
さらに、企業の「就業規則」で異動に関する条文に、企業の人事権によって就業場所の変更ができることを明記しておくとよいです。契約締結時と現実に大きな乖離がないよう、対応に注意する必要があります。
2.更新上限の明示
更新上限とは、有期契約の通算契約期間もしくは更新回数上限のことですので、適用される対象は有期雇用人材となります。企業と派遣労働者が有期労働契約を結ぶ、もしくは更新する際に、更新上限の有無と詳しい内容を明示する必要があります。
また、「最初の契約締結のあとに、更新上限を新しく設ける」「最初の契約締結の際に設けた更新上限を短縮する」という2つのケースでは、労働者への説明が必要です。更新上限を変更する際には、上限を新たに設ける・短縮するにかかわらず、事前に、詳しく丁寧に、理由を説明しておくことがとても重要です。
3.無期転換の申込機会の明示
労働者に対して「無期転換への申し込みができる」ということを明示する必要があります。有期雇用労働者からの申し込みによって、期間を定めない「無期労働契約」に転換できる「無期転換ルール」というものがあります。有期労働契約が5年を超えて更新されたときに「無期転換の申し込み権」が発生します。例えば契約期間が1年の場合なら5回目の更新後の1年間に申し込みがあれば無期労働契約が成立します。
無期転換の申込機会の明示のタイミングとしては、「無期転換ルール」にのっとり「無期転換申し込み権」が発生するときがベストです。
4.無期転換後の労働条件の明示
「無期転換の申し込み権」を行使した労働者が実際に転換した後に、労働条件を明示しなければならなういという義務です。労働条件は、正規雇用労働者とのバランスに配慮して決定し、有期契約労働者に説明しましょう。なお、正規雇用と非正規雇用の労働者間で不合理な待遇差を設けることを禁止する「同一労働同一賃金」をふまえて条件を決めることが大切です。
明示するタイミングとしては、「無期転換申し込み機会」と同じく「無期転換申し込み権」が発生するタイミングで示すのがよいでしょう。
労働法改正これまでの変遷と背景
「労働者派遣法」は働き方が変わっていく社会の流れに対応し、変化の中で生じた問題に対応するよう法改正が行われてきました。法律制定時から、どのような経緯をたどって改正されてきたか、社会情勢や時事的課題も交えて紹介しつつ追っていきましょう。
1986年:「労働者派遣法」制定
労働者派遣法施行時は、労働者派遣の対象は13の職種に限られていました。10月には3職種が追加され、16業種への人材派遣が解禁されています。業務内容は「一部の特筆すべき技能を必要とする業務」とされていました。
※対象16種:ソフトウェア開発、取引文書作成、調査、受付・案内・駐車場管理、建築物清掃、秘書、事務用機器操作、デモンストレーション、財務処理、ファイリング、建築設備運転・点検・整備、添乗、通訳・翻訳・速記。
機械設計、放送番組などの演出、放送機器などの操作が追加となった。
時代は高度成長期で、働き手がいくらでも必要な社会情勢が背景にありました。
1996年:ポジティブリスト制度
派遣の対象となる業種は「ポジティブリスト」と呼ばれ、人材派遣可能な16業種に、人材派遣の対象に10職種が追加(貿易や広告デザイン、インテリアコーディネーター、アナウンサーなど)されました。
90年代後半はバブル崩壊後の不況。企業は正規雇用者を増やせず、人材派遣に対するニーズが高まりました。
1999年:対象業務のネガティブリスト化
大幅な規制緩和がなされ、原則として職種の別なく人材派遣が可能になしました。これまでは派遣できる職種を決めていた「ポジティブリスト方式」でしたが、労働者派遣を禁止する職種を定める「ネガティブリスト方式」に切り替わりました。
ネガティブリストに含まれていた派遣禁止の職種は、士業(弁護士、公認会計士、税理士など)、医療業務、港湾運送業務、建設業務、警備業務。物の製造業務については「当面の間禁止」とされました。派遣事業の対象は格段に拡大しましたが、専門業務以外の派遣期間は1年限定でした。
2000年:「紹介予定派遣」解禁と期間上限の緩和
派遣労働者の直接雇用促進のため「紹介予定派遣」が解禁されました。
2004年:製造業務への派遣解禁
99年の法改正で「当面の間禁止」としていた物の製造業務へ派遣が解禁されました。また、物の製造業務のみ、派遣期間の上限は従来どおり1年に据え置きでしたが、3年後の07年には再度変更され、すべての期間が最長3年に揃いました。
2006年:医療業務への派遣が可能に
一定の条件を課したうえで医療業務の派遣が可能となりました。
2012年:規制の強化
派遣労働者の権利を守るためのルールが強化され、日雇派遣の原則禁止・グループ企業内派遣の規制・離職者の1年間の派遣の禁止・人材派遣会社のマージン率公表の義務化・派遣労働者への説明義務など、規制が追加されることになりました。
派遣事業への規制緩和や派遣への需要の高まりによって、二重派遣や派遣の偽装などが問題化しました。また、いわゆる「派遣切り」が社会問題化したのもこの頃です。緩和の方向で進んできた派遣法ですが、労働者を保護するために規制強化の動きが生まれました。
2015年:派遣労働者保護の強化
派遣会社のコンプライアンス促進のため、すべての労働者派遣事業を許可制になりました。
また、労働者派遣の業務による期間制限により、「事業所単位」と「個人単位」の期間制限の上限は3年になりました。さらに、派遣会社にも雇用安定措置の促進が求められ、キャリア形成支援制度実施の義務化、派遣労働者が希望する場合には無期雇用への転換や派遣先での直接雇用支援などが盛り込まれました。
2020年:同一労働同一賃金
派遣労働者にも、同種の業務に従事する正規雇用者と同等の待遇が求められる「同一労働同一賃金」がルールとして盛り込まれました。派遣労働者の待遇の決定方法に関する改正も行われ、派遣先均等・均衡方式や労使協定方式が生まれました。
「働き方改革」が推進する一方、「格差社会」という言葉も生まれ、派遣労働者と正規雇用労働者の待遇格差も問題化した頃です。社会情勢に対応してルール化・徹底が求められました。
2021年:派遣労働者への説明義務が強化
派遣労働者への賃金・待遇などの説明義務、派遣労働者からの苦情に対する処理義務が強化されました。
新型コロナウイルスが猛威を振るっていた頃で、雇用形態を問わず、働く人には大きな心理的ストレスがありました。ハラスメント対策・健康経営が企業に求められるなか、派遣労働者の心身の安全性が考慮された強化でした。また、リモートワークが促進し、デジタルツールも大きく普及。労働者派遣契約書のデジタル記録が解禁となりました。
そして、きたる2024年、労働者派遣法が改めて改正されます。21年の説明義務をさらに具体化する流れといえるでしょう。
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多様化する働き方に対応し、さまざまな改正をつづけている「労働者派遣法」。
これからも、社会情勢や事業課題が顕在化するごとに、対応して変化しつづけるでしょう。企業人事の頻繁な法改正に対応する必要があります。派遣人材の管理にはコスト面や手間、対応する担当者の心理的負担など、不安を感じている企業も多いのが現状です。
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